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気密を曖昧にする住宅業界

高気密・高断熱住宅が誕生したのは、今から35年以上も前に遡ります。

オイルショック以降、住宅にも断熱化が叫ばれ、欧米の断熱技術を取り入れ、寒い北海道で導入されたのが始まりです。

当時はまだ、家の断熱化といえば、断熱材とサッシの性能がメインで、気密や防湿という考え方は、重要視されず、壁や床・天井にグラスウールを大量に詰め込んだだけのものでした。

しかしながら、断熱材をいくら厚くしても、あまり効果がないばかりか、数年後、予想もしなかった大変な問題が発生したのです。

その事件とは、北海道で起きた「ナミダタケ事件」で、1980年頃、新築3~4年目の住宅の床下に大量のナミダタケが発生し、床が腐り落ちるという事件が頻発したのです。

こうした悲惨な被害は道内に拡がり、実に何万棟もの住宅が被害を受け、マスコミでも取り上げられ大きな社会問題にもなりました。

原因は、壁内や床下での結露水が、グラスウールに吸収され、木材を濡らし、腐朽が進んだことで、発生したものと解り、単に断熱材を厚くするだけでは、暖かくならないばかりか、室内の水蒸気が躯体内に侵入し、内部結露によって構造材を腐らし、重大な被害を及ぼすということが明らかとなったのです。

この事件を契機に、断熱化には、内部結露を防ぐ防湿気密が必需とされ、高気密・高断熱の技術が確立され、北海道ではよほど無知の業者でなければ、どこで建ててもレベルの高い高断熱・高気密の住宅です。

そして、1999年、次世代省エネ基準が創設され、断熱性能を表すQ値と気密性能を表すC値が、各地域に合わせて明記されました。

しかしながら、その基準は、次世代とは名ばかりの不十分な数値で、Q値・C値とも最低限のレベルというものでした。

特に、C値に関しては、温暖地で5.0以下、寒冷地でも2.0以下という大変ゆるい基準で、測定の義務もなく非常にあいまいなもので、この宮城県でさえ温暖地の扱いだったのです。

こうして、次世代省エネ基準をベースにした家づくりの普及が進んではきたのですが、計算上のQ値さえクリアすれば、住宅性能表示制度や長期優良住宅制度では、温熱等級が最高ランクとなるために、C値はいつしか置き去りになり、本州で、気密性能の重要性はなかなか理解されず、本物の高気密・高断熱はなかなか普及せず、未だにこうした状況が続いているのです。

こうした背景には、通気性や風通しを長年重視してきた日本の家づくりの考え方が大きな要因でもありますが、結露被害の深刻さや気密の重要性への認識が非常に乏しく、高気密化という、名前からくる偏見や誤解・拒否反応を示す方も多く、風通しが悪そう。息苦しくなりそう。シックハウスになりそう。中には、快適すぎると子供の抵抗力が低下して、ひ弱に育つといった誤った考え方が、消費者ばかりでなく、つくり手にも、根強く残っているのです。

大手のハウスメーカーやローコストのパワービルダーが、中心の住宅業界にあって、目にみえない気密工事を実施することは、コストや職人さんへの教育・現場管理にいたるまで、多くの時間と費用を要すことから、全棟C値2.0以下という、最低限の気密性能すら、確保することは困難なのです。

こうして、ほとんどのハウスメーカーでは、出来るだけ高気密という表現を避けて、ユーザーの質問に対しても、気密はそこそこでも大丈夫ですよ。中気密でちょうどいいです。あまり気密を良くすると風通しが悪くシックハウスになりますよ。といった無知で無責任とも言える話が、あちこちで聞かれるようになり、省エネ性や快適性・耐久性を阻害し、内部結露を助長する中途半端な建物が、次々と建てられ、今日の空き家の増加やアレルギー患者の急増という皮肉な結果を生み出しているのです。

さすがに、ナミダダケ事件以降、床下の断熱材は、吸湿性の高いグラスウールから発泡系断熱材に変わり、床が抜けおちるとういう建物はなくなりました。

木材にも、防腐や防蟻薬剤によって、腐朽や蟻害を抑えているのですが、単に、薬剤によって、湿気や結露しても腐りにくい住宅が、劣化対策でも最高等級というのが、この国の基準なのです。

しかし、四季があり、高雨多湿という日本の気候風土や冷暖房があたり前の現代の暮らしの中で、湿気や結露により、劣悪な環境に置かれやすい床下や壁・小屋裏の断熱や構造部分の劣化を薬剤で抑えきれるものかは、実際の所、誰もわからないというのが現実なのです。

そしてあろうことに、25年4月1日より施行された改正省エネ基準では、防露性能を確保する旨の明記はあるものの、気密の基準や文字はすっぽりと削除されてしまったのです。

この基準がこの国の現行の省エネ基準なのです。

役所が、気密基準を削除した理由として挙げているのが

「一定程度の気密性が確保される状況にあること、また住宅性能表示制度における特別評価方法認定の蓄積により、多様な方法による気密性の確保が可能であることが明らかになってきたことなどから気密住宅に関わる定量的基準(相当隙間面積の基準)は除外されました。」

ということなのです。

しかし、削除された一番の原因は、大手ハウスメーカーやパワービルダーを初め、住宅を取り巻く様々な関連業界の力がはたらき、除外されたというのが、業界の一般的な認識でもあります。

気密性能を疎かにした省エネ住宅は、絵に描いた餅と同じで、いくら計算上の断熱性能を強化しても、その性能を十分に発揮することはなく、省エネにも快適性の向上にもつながらず、そればかりか内部結露によって徐々に住まいと人の健康を蝕み、短命な住宅になる危険性が非常に高いということを是非ご理解いただきたいのです。