2021年3月15日
アンチエイジングな家づくりを
高性能住宅というフレーズを用いて、大手メーカーからローコストメーカーまで、自社の住宅をPRしていますが、実際のレベル差は大きく、残念ながら本物の高性能住宅と言えるのはごく僅かです。
しかも、20年後・30年後の経年変化による性能の劣化を考えると、これまで以上に短命になってしまう家が、増加する可能性が大きいと危惧している次第です。
これは、中途半端な家のつくりが大きな要因ではありますが、実際に住まわれるユーザー自身の間違った暮らし方による影響も少なくないということを、失礼ながら付け加えさせていただくことをお許し下さい。
改めて、高性能住宅の要素を紹介させていただきます。
〇 温度差が少ない
従来の住宅では、暖房のある部屋と暖房のない部屋(浴室や脱衣場・トイレも含む)の温度差や、夜寝る時と朝起きる時の温度差は、最低でも10℃から15℃位生じるのが一般的な家です。
残念なことに、現在もこうした家とほとんど変わらない住宅が、高性能住宅として、次々建てられていますが、高性能住宅というからには、真冬の部屋間の温度差は2℃~3℃以内、暖房を消した夜と早朝の温度差も5℃以内というのが最低の目安となります。
家の温度差が5℃以上になると、寒い部屋の窓や押入れなどに湿気が移動してしまい、結露が発生する可能性が高くなり、カビやダニも繁殖しやすくなります。
また、10℃以上の温度差を強いられた暮らしによって、ヒートショックによる悲しい事故が急増しており、家の温度差をなくすことは、ヒートショックを防ぐためにも重要です。
〇 省エネルギー
部屋間の温度差を小さくするには、室内に暖かさが行き渡るためのエネルギーが、当然ながら必要です。
そして、どんな家であれ多額の暖房費を投入すれば温度差のない暮らしは一応は可能となりますが、気密や断熱が不十分な家で、家中を暖めると暖房費が莫大になるために、現実的ではありません。
高性能住宅では、これまでの1室から2室分程度の暖房費で、家中の温度差を一定にすることが可能で、寒さがもたらす様々なストレスを解消するとともに、温度差によって生じる結露を抑え、省エネで快適な暮らしが実現します。
ただ、家だけ高性能にしても、省エネで快適にはならず、開放的な間取りや暮らし方も非常に大事になります。
暖房もこれまでの、いる部屋だけ閉め切って暖房する局所暖房や使う時だけ暖房する間欠暖房では、高性能住宅の恩恵を享受するのは難しく、温度差によって、少なからず湿気や結露問題の完全な解消は望めないのも現実です。
高性能住宅では、間欠運転や局所暖房と変わらぬ光熱費で、全館暖房が可能で、家中の温度差を2℃~3℃以内に抑えられますので、これまでの暮らし方を変えることも重要です。
〇きれいな空気
24時間計画換気の導入により、頻繁に窓を開けずとも、室内の空気の汚れや湿気を排出し、かつ新鮮な外気を導入することで、室内の空気は常にきれいな状態を保ち、シックハウスはもとより、空気の汚れによる喘息やアトピーなどのアレルギーの発症や悪化を防ぎます。
そして、空気の汚れや湿気によって、カビやダニ・害虫も繁殖し、臭いを消すための、消臭剤や芳香剤を使用し、防虫剤や殺虫剤も必要になり、アレルギー症状や化学物質過敏症の患者も急増しているという認識も必要です。
特に、長時間いる寝室の空気は重要で、きれいな空気の中で、質の高い睡眠をとることで、免疫も高まり、健康を維持できるのです。
しかしながら、換気設置は義務化でも、使用は個人の自由になっている現状の中、換気不足と思われる住宅が非常に多く、アレルギー患者の大きな増加要因とも言われています。
また、換気をつけていても、気密性能が低かったり、フィルター清掃などのメンテが悪く、換気が機能していない住宅も多いので注意が必要です。
〇音が静か
気密性や断熱性を高め、開口部も性能の高いサッシを採用することで、外部の騒音はもちろん、台風や大雨の音などで、睡眠を妨げることのない静かな住まいとなります。
※ 遮音性が高いということは、当然、家の音も漏れにくいのですが、家の中の音が漏れにくいということは、家の音が気になる場合も少なからずございます。二世帯住宅をご計画している方は、同居なされる親御さんに配慮し、音が気にならない間取りの検討が必要です。
〇高耐震&制振・免震
地震国日本では、頻繁に大きな地震が発生し、そのたびに大きな住宅被害に見舞われます。
東日本大震災でも、地域によっては震度6強の本震と同レベルの余震によって多くの被害が発生し、熊本地震でも、大きな地震が連続して発生し、新耐震の基準を満たした住宅でも全壊した住宅が数多くありました。
現行の基準法では、震度6強の地震では倒壊しない強度というのが定められていますが、この程度の強度では、不十分であり、さらなる耐震性の強化が必要です。
また、熊本のような連続地震にも耐えるには、地震の揺れを最小限にする必要があり、高性能住宅には、制振装置などの導入も検討が必要です。
ざっと、高性能住宅の要素を紹介させていただきましたが、高性能住宅のベースとなるのが、
気密・断熱・換気・冷暖房のバランスとなります。
特に、気密と断熱は、高性能住宅の要であり、どちらが欠けても高性能な住宅にはなりえません。
そして、住まい手となるユーザー自身も、これらの要素の重要性を理解した上での正しい暮らし方が必要となるのです。
正しい暮らし方というと面倒に感じる方もいらっしゃると思いますが、難しくも何ともありません。
暮らし方のポイントは、基本的にこの3つです。
〇 計画換気は常時運転し、適切なメンテナンスによって必要な換気量を確保する。
〇 温度差を小さくする開放的な暮らし方と温度差を抑えるための適切な冷暖房の使い方
〇 加湿や除湿によって、湿度を冬40%~夏60%台にコントロールする
常に換気された新鮮な空気の中で、家の中の温度と湿度のバリアをなくす暮らしを心がけることで、省エネで快適に、そして健康な暮らしが送れるのです。
そして、こうした性能が、建築当初ばかりでなく、長期間にわたり維持できる家こそが、本物の高性能住宅となり、50年後も次の世代に引き継げる資産価値の高い住宅となるのです。
気を付けたいのが、気密や断熱の性能の経年による劣化で、この二つの性能が劣化すると高性能の要素が、徐々に崩れてしまうのです。
30年もてば十分というお客様もおりますが、ご自身も年々年齢を重ね、体力や免疫力が低下していくのは必然です。
人生100年時代と言われる今日、年齢を重ね、体が弱ってくる30年後も40年後も家の基本性能が維持できる家にしなければならないということで、ご家族のためにも、ご自身の老後をリアルに考えた家づくりが必要な時代なのです。
僅か1%の性能が劣化していくだけで、30年後・40年後にはどうなるでしょう。
性能が低下していくことで、さらに劣化は加速され、将来は今のローコストの建売住宅以下になる可能性すらあるのです。
特に、湿気や結露は大敵で、窓や押入れなどの表面結露にくわえ、目に見えない床下や壁の中・小屋裏の湿気を抑え、内部結露を防ぐ、家のつくりと住まい方が重要です。
私達も贅沢になり、一家に何台もの冷暖房があたり前の時代ですが、過剰な冷暖房と家の中途半端な気密と断熱によって、内部結露は冬ばかりでなく夏にも多くの住宅で発生しているのが現実なのです。
湿気(水蒸気)は、冬期間は室内から外へ移動し、梅雨から夏季は、外から室内へと移動するということをご理解いただき、躯体の中へ湿気を侵入させないつくりが重要となるのです。
湿気や内部結露によって、家の耐久性が著しく低下するのは、この国の住宅の歴史を見れば火をみるより明らかです。
構造躯体の湿気や結露を防ぐことで、「いつまでも強く・いつまでも快適に」住む人と住まいの健康をいつまでも守り、50年後も次の世代に引き継げるアンチエイジングな住まいになるということをご理解いただければ幸いです。
- 高橋一夫