2022年1月20日
床暖房の是非について考える
床暖房についての問い合わせが多いので、改めて紹介させていただきます。
足元から家全体を暖める全館床暖房に憧れを抱いているお客様がいらっしゃいますが、部分的な敷設はともかくとして、家全体に設置する場合は、慎重な検討が必要となります。
というのも、折角、全館床暖房にしても、上手に活用している方は非常に少なく、後悔している人も少なくないのです。
そもそも床面が冷たく、足元がスース―するのは、断熱が不十分で隙間の大きい家がもたらす現象で、気密がしっかりとれて、断熱が正しく施工されていれば床面の冷えは感じないものです。
このデータは、スマイラボというサイトの冬の暖房についてのアンケート調査のデータですが、床暖を設置していても使っていないというユーザーは、32%もいます。
しかも、使用している方でも、全ての床暖を使用したり、24時間運転している方は、驚くほど少なく、多くのユーザーが、いる部屋だけ使う局所運転や使う時だけ入れる間欠運転になっているのが現状で、エアコンなどの暖房との併用するご家庭も多いのです。
これでは、全館床暖房にした意味は薄れ、実にもったいない使い方とも言えるのです。
なぜこうした使い方になるのでしょう。
床暖房をメイン暖房として利用し部屋間の温度差をなくすには、24時間連続運転が基本となります。
全館床暖は、家全体の温度差を無くすために廊下や水回り・クローゼットにまで、パネルを敷設するわけですので、季節の変り目などは別にしても、全てのパネルを運転させることで本来の効果が発揮されるのです。
ところが、頭では何となく理解していても、実際の生活では、いない部屋や使わない時まで使うのは、光熱費の無駄という観念がはたらいてしまい、どうしてもこうした使い方になってしまうようです。
床暖房は、立ち上がりが遅く、パネルが暖まるのも、部屋が暖まるのも、それなりの時間が、かかるのはご理解いただけると思います。
電気式の床面はすぐ暖まりますが、不凍液を循環させるタイプの床暖は、不凍液を暖めるのにも、時間を要してしまうので、余計に時間がかかるのです。
こうした間欠や局所的な運転をしていると、床暖房の快適さを得る事は難しく、逆になかなか暖まらないとか、早く暖める為に設定温度を上げて、今度は逆に床が熱くなりすぎたり、負荷がかかり、光熱費が逆に上昇したりもするのです。
また、温度を上げ過ぎると、床材の隙間や不陸・塗膜のヒビなどの問題が生じたり、小さなお子さんがいる家庭では低温やけどの心配も必要です。
その内に、メンテナンスや不凍液の交換も煩わしくなり、いつしか使わなくなるというユーザーも出てくるわけで、こうなると使わなくても床暖の固定資産税だけ、年間数万も払うようになり、実に無駄な投資になってしまうのです。
電気式の床暖房についても、付け加えさせていただきたいと思います。
家の性能によっても、大分差はありますが、全館床暖にした場合のランニングコストはしっかり確認しなければなりません。多くの人は電気代が高く使用しなくなるケースが非常に多いのです。
また、健常者の方には、影響ないかも知れませんが、パネルから発する電磁波の影響は少なくないので注意が必要です。
電磁波過敏症は、まだ馴染みがない疾患ですが、電磁波に囲まれた現代の暮らしの中で増加傾向にある疾病です。
また、シックハウスや化学物質過敏症に発症してしまうと、なぜか電磁波過敏症にまで発展するケースが多いようで、因果関係ははっきりしませんが、頭に入れておいていただければと思います。
話を戻しますが、私の知り合いにも、全館床暖房を採用している方がおりますが、この方も、この辺のことを全く理解しておらず、床暖を使わずにエアコンで暖房していたので、色々と説明をしたのですが、理解させるのに結構大変でした。
笑い話のようで何ですが、この方が床暖を使うのは、お客さんが来る時や家族が集まるお正月だけで、2.3日前から電源を入れるそうです。そして、お客さんや親せきに床暖暖かくて凄~いと言われるのが、嬉しいようで、床暖はそのためにあるようなもんだよ。と笑いながら言っていました。
とにかく、全館床暖房で、注意しなければならないのが、適温を保つための温度の設定や調整で、タイマーなどを上手に使いこなすためには、断熱に対しての正しい理解と、性能を生かすための暮らし方の工夫や改善も必要で、暑くしすぎると乾燥感が強くなったり、時には窓を開けたりするケースもあるので注意しなければなりません。
単に、Ua値などの性能値ばかりに目をむけ、暮らし方を変えずにいると、省エネで快適に過ごせないばかりか、逆に性能の高さが仇になって、アレルギーが発症し健康を害したり、建物の耐久性まで影響を及ぼしてしまうことも十分ありえるのです。
これは、床暖房に限ったことではなく、エアコンの暖房についても同様で、エアコンも局所や間欠運転する方が、圧倒的に多いのです。
いつも、紹介しているように、断熱性能が優れた家は、エアコンも24時間つけたままの状態と間欠運転するのとほとんど変わりはないのです。
しかも、温度差による結露やカビ・ダニの繁殖も抑えられ、ストレスのない快適な環境の中で健康に暮らすことが出来るのです。
いずれにしても、全館床暖房を設置する場合は、イニシャルコストやメンテナンス費用・ランニングコスト・固定資産税の負担増なども、十分に考慮した上で、ユーザー自身が、上手に使いこなせるかの検討が必要ではないでしょうか。
そして、余談にはなりますが、人の足の裏というのは、何気に贅沢で、気ままに出来ており、扱いが難しいものです。
床が冷たいのも問題ですが、逆に暖かすぎると、汗をかいたり、ムズムズしたりと実に厄介だということも、頭の片隅に入れておいていただきたいと思います。
※ 最後に注意喚起ということで紹介させていただきます。
これは床暖房に限ったことではなく、弊社の家やどんな家にも当てはまることですが、大事なことですので、理解しておいていただければと思います。
室内空気の重要性について、いつもご説明させていただいておりますが、室内で呼吸する空気の影響が一番大きいのが、床面の空気になります。
東北大の吉野名誉教授のシックハウスの研究によるものですが、人が呼吸する起源となる部屋の部位に、床・壁・天井とある中で、床面が一番影響するというもので、立っている場合でも53%・寝ていると実に73%の空気が床起源によるもので、座っている場合でも60%以上が床起源となるようです。
立っていても、53%の空気が床が起源するというのは、驚きですが、これには理由があって、人の体温によって、空気の上昇気流がはたらき、床面の空気を上昇させることで、こうした現象になるそうで、同じ面積の天井の比率と比較すると、雲泥の差が生じるのがわかると思います。
私も、これまで床暖房は空気の対流が起きにくく、空気を汚さないという認識でしたが考え方がガラッと変わりました。
何を言いたいのかといえば、床暖房にした場合は、床面の温度が25℃から30℃位に設定するのですが、床面温度が高いということは、通常の家よりも、さらに上昇気流がはたらき、床を起源とする空気を取り込む比率が大きくなるということです。
つまり、床材やワックスなどに含まれるVOCの揮発量も増加し、床面に溜まりがちなハウスダストや様々な有害物質も空気中に拡散されやすくなるということになるのです。
これは、全ての住宅に共通する問題ではありますが、床材の選定やワックス・洗剤や消臭剤・ハウスダストも含めて、床面の環境は非常に大事なのです。
また、床暖の場合は、床下断熱が基本となります。気密や断熱施工の精度によっては、床下での結露発生の危険や夏場は地熱の効果も得られない事から、床面が室内温度と変わらず、エアコンの使用量も増えることも想定しなければなりません。
また、私達の足の裏から発生する、汗や皮脂の有機物も、床に付着することも、考慮しなければならず、有機物の揮発を抑え空気を清浄にするためにも、日々の清掃が欠かせないということもご理解いただければ幸いです。
- 高橋一夫