2024年4月16日
住環境と健康との関連性についての講話
先日、ロータリークラブの合同例会に講話の依頼を受け、住環境における健康への影響についてのスピーチをさせていただきました。地域でご活躍の経営者の集まりであり、少々言葉を選びながらの講和となりましたが紹介させていただきますので良ければご一読ください。
以下書きおこしとなります。
----------------------------
健康の3大要素と言えば、栄養(食事)・運動・休養(睡眠)と言うのが一般的です。加えて昨今では、心身のストレスの影響も指摘されているところです。
当然、一つ一つが重要な要素ではありますが、それぞれをバランスよく整えることで、免疫が高まり疾病予防につながるわけです。
そしてあまり注目されていませんが、これらの要素に何気に関わってくるのが住環境です。
日々の疲れを癒し、明日の活力を生み出すのが住居となりますが、細胞の修復や自律神経を整える意味でも人生で一番長い時間過ごす住まいの環境はとても重要ですので紹介させていただきたいと思います。
今日は、医療関係者もいる中で、医療従事者でもない私が紹介するのは、甚だ僭越ではございませんが、一応、シックハウス診断士や環境アレルギーアドバイザー、健康予防管理専門士や福祉住環境コーディネーターなどの資格を持っておりますので、医師法や薬機法に触れない程度にご紹介させていただきますのでよろしくお願いします。
まず住まいの温熱環境の話となります。昨今、官民一体となって様々な調査研究が進められておりますが、寒い家は多くの疾病の要因となり、健康寿命をも短くするということが明らかになってきました。
交通事故死はシートベルトやエアバックの普及によって、年々減少し、3,000人となりましたが、反面、寒い浴室や洗面、トイレでの死亡は30,000人を超える時代になってきており、その中でも浴槽内での溺死が7000人とも言われております。
そのほかにも寒さが起因して、脳卒中や心筋梗塞などの循環器系の疾患によって年間20万人以上が死亡しているのが現状です。資料を見ていただきたいのですが、特に11月から3月といった冬季間の死亡率が高いのですが、驚くことに一番寒い北海道が冬の死亡率が最低なのです。理由はとてもシンプルで家が温かいということで、高断熱・高気密の住宅が一般化していることで、ヒートショックによる死亡が少ないということです。
日本は先進国であり、各方面でトップレベルの技術を有しておりますが、こと家の断熱に関しては、先進国最低であり、海外からは断熱後進国と揶揄されております。
昨今の脱炭素の流れもあり、家の断熱基準が見直されてきてはおりますが、それとてその基準は、お隣中国や韓国以下であり、その基準がようやく来年に義務化となるレベルなのです。
リビングなどの居室は、どの家庭でもある程度暖かくしていると思いますが、問題は非暖房室(廊下や水回りなど)との温度差です。
室内の温度差が大きいと血圧の乱高下(血圧サージ)によって、血管にダメージを与えますので、最低5℃以内(理想は2℃~3℃)に抑えた暮らしを心がけていただきたいと思います。
また就寝中の突然死も増加しており、寝室の温度も重要です。個人差はありますが、冬季間の寝室温度は最低でも16℃~20℃と言われておりますが、寒い寝室ではなかなか寝付けなかったり、厚手のパジャマや毛布を何枚もかけたりして、寝返り時に布団がずれたりすることで、寒さで目が覚めトイレが近くなったりして、睡眠を妨げたり、ヒートショックや転倒の危険が生じることになります。
また寝室が寒いと低体温になりがちです。よく体温が1℃下がると免疫は30%低下し、逆に1℃上がると5倍になると言われていますが、がん細胞は35℃で活性化するという話もよく聞く話です。
日本人の平均体温は、50年前の36.8℃から現代では36.1℃に低下しておりますので、免疫を高めるためにも36.5℃以上になる食習慣や生活習慣が必要だと思います。
また寒い家の暮らしは、心身のストレスにも大きな影響を与えます。
起きるのがつらい・電気毛布がないと寝られない・寒さで目が覚め何度もトイレにいく・脱衣場や浴室が寒くて入浴がつらい・結露やカビに悩まされる・何をするのもおっくうになる・石油キレのブザーや入れるのが苦痛・風邪をひきやすい・肩こりや腰痛、片頭痛がひどいなど、寒い家がもたらすストレスは、数えきれないほどたくさんあるのではないでしょうか。
こうした話は冬ばかりでなく、夏の暑さも大きな影響をあたえることになります。毎年のように温暖化やヒートアイランドによって、真夏日が過去最高を更新しておりますが、熱中症は室内での発生率が一番高いので注意が必要です。
そして温度差に加えて、室内の空気環境も重要となります。人間の体内に取り入れる物質の重量比は、食べ物7%・水8%・空気85%となり、人にもよりますが、そのうち室内空気は60%です。
空気の汚れは目に見えないので非常に厄介ですが、一般的に室内の空気は街中の空気の10倍汚れていると環境省でも公表しており、医療費を中心とした経済的損失は大気汚染の倍となっています。
室内に蔓延する化学物質は2,000種類以上もあり、年々増加の一途です。普段使用する消臭剤や芳香剤、合成洗剤、柔軟剤、防虫剤、ファンヒーター燃焼時の化学物質、ワックスや日用品、ハウスダストなど空気が汚れる要因は多々あります。
特に最近では、圧倒的に換気不足の家が大半であり、換気を意識した生活が重要となります。
我が家は隙間だらけだから換気は大丈夫という方もよくいらっしゃいますが、隙間換気が働くのは室内外の温度差の大きい冬場の現象で、暖かくなり温度差が少なくなると、よほど風でも強くなければ隙間換気は機能せず、真夏などはほとんど機能しないのです。
バリアフリー住宅というと、家の階段や段差を思い浮かべると思いますが、家の段差より危険なのが温度差や空気の汚れであり、空気のバリアのない住まいが真のバリアフリーといえますのでご理解いただければ幸いです。
最後に看護の母として誰もが知るナイチンゲールの話を紹介したいと思います。ナイチンゲールは160年位前に「看護覚え書」という書籍を出版したのですが、この本は看護学校の学生のバイブル本として、未だに世界中で販売されています。
その本の第一章が「換気と保温」となっており、看護にとって何より大事なのが、患者を新鮮な空気の中で暑がらせたり、寒がらせないように適温を保ち、適切な栄養を与え、自己治癒力を高めることが大切である。そして病気の回復を阻害するのも空気の汚れと体の冷えであり、病の半分は空気の汚れと体の冷えが引き起こすとも説いているのです。
この看護覚え書は、その他にも看護や介護に重要な事柄がぎっしり詰まっており、看護職に携わる人に向けてだけ書いたのではなく、家族や大事な人の看護に携わる全ての人々に理解してもらうために書いたという国民必読の書籍です。
中古本ですと数百円で売っておりますので是非一度読んでいただきたいと思います。
幸せの源は何といっても健康です。人生100年時代と言われていますが、単に長生きするのではなく、健康寿命を延ばし、自分と家族、会社を守り、共にロータリーの奉仕活動に邁進し地域社会と世界平和に貢献してまいりましょう。本日はご清聴ありがとうございました。
- 高橋一夫